OpenAI「著作物での学習がフェアユースでなければAI競争は終了する」発言とは?米国で高まるAIと著作権の論争

ChatGPTのDeep Research(AI)での出力結果をそのまま掲載しています。ChatGPTのDeep Researchはハルシネーション(誤った情報の生成)が少なくなるよう調整されていますが、あくまで参考程度に読んでください。当記事は検索エンジンに登録していないため、このブログ内限定の記事です。

米OpenAI(ChatGPTの開発企業)が、「AIモデルの訓練に著作権で保護された作品を使うことがフェアユースに当たらないなら、AI競争は実質的に終わってしまう」と発言し、大きな注目を集めています ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。この発言は、AI開発における学習データとして他者の著作物を利用することの是非を巡る激しい議論の中で飛び出したものです。この記事では、この発言の詳細と背景、関連する法律や裁判例、他社の対応策、政策立案者の見解、そして今後の展望について、初心者にも分かりやすく解説します。

OpenAIの発言の詳細とその背景

「フェアユースでなければAI競争は終了」 – OpenAIがこう警鐘を鳴らしたのは、2025年3月に米国政府向けに提出した提案や声明の中でのことです ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。同社は米政府のAI戦略に対する意見募集に応じ、著作権法の運用について次のように主張しました。

「もし中国の開発者が著作物データへ無制限にアクセスできる一方で、米国企業がそれを規制で禁じられれば、AIのレースは事実上終わってしまう…」 ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)

OpenAIはこの声明の中で、米国が著作物から「学習する自由」を保障する著作権戦略を採らなければ、中国など他国にAI分野の主導権を奪われかねないと述べています ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。これは、AIモデルの訓練(学習)においてインターネット上の文章や画像など著作権で保護されたコンテンツを利用できるよう、法的に明確に保証すべきだという主張です。OpenAIは米政府への提案書で「コンテンツ制作者の権利利益を守りつつ、AIモデルが著作物から学習できる能力を維持することが、米国のAIリーダーシップと国家安全保障の鍵になる」と説いています (OpenAI Argues US Will Forfeit AI Lead to China)。

この発言が飛び出した背景には、近年の生成AIブームとそれを取り巻く著作権論争があります。ChatGPTや画像生成AIの台頭により、AIが大量のテキストや画像データを「学習」する過程で他者の著作物を無断で取り込んでいるのではないかという懸念が高まりました。実際、OpenAIのChatGPTはウェブ上の膨大な文章を学習していますが、その中には新聞記事や小説、楽曲の歌詞など、著作権で保護された作品が多数含まれていると考えられています。OpenAI側は「インターネット上で公開されている資料をAIの学習に使うことは、長年の判例が支える正当なフェアユースである」と主張しています (Training Generative AI Models on Copyrighted Works Is Fair Use — Association of Research Libraries)。しかし著作物の提供者側(作家、ニュース企業、アーティストなど)からは「無断利用は著作権侵害だ」とする訴えも相次いでいます (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。

OpenAIのCTO(最高技術責任者)ミラ・ムラティ氏が2024年秋のウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、自社AIの学習データの出所について問われた際に明確な回答を避ける一幕もありました (OpenAI's Controversial Interview About Sora) (OpenAI's Controversial Interview About Sora)。ムラティ氏は「公開データを使っている」と述べるにとどめ、YouTubeやInstagram上の動画を使ったかどうかすらはっきり答えなかったのです (OpenAI's Controversial Interview About Sora)。この様子から「もし本当に合法と確信しているなら堂々と『YouTubeの動画を使った』と言えるはず。答えを濁すのは法的立場に自信が持てないからではないか」と指摘する声も上がりました (OpenAI's Controversial Interview About Sora)。このように、AIの訓練データ問題は企業にとってもセンシティブなトピックとなっています。

AIの学習データ利用を巡る背景と論争

AIモデルの「学習(トレーニング)」とは、人間で言えば大量の書物や資料を読んで知識を蓄えるようなプロセスです。生成AIの場合、インターネット上から収集した莫大なテキストや画像データを統計的に分析し、言葉のつながり方やパターンを学習していきます。その中には当然、誰かが著作権を持つ創作物も含まれます。

問題の核心は、この「AIによる無断コピー」が著作権法上許されるのかどうかです。米国の著作権法にはフェアユース(公正利用)と呼ばれる規定があり、公共の利益になるような限られた用途であれば、著作権者の許可なく作品を利用できる場合があります。例えば批評やニュース報道、教育や研究目的での引用などが典型例で、裁判所は(1)利用の目的と性格、(2)元作品の性質、(3)利用した量と重要性、(4)元作品の市場価値への影響――という4要素を総合的に考慮してフェアユースか否かを判断します (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic) (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic)。

AI企業側はこのフェアユースを盾に「AIの訓練は人間の読書と同じで創作物の新たな活用であり、研究開発目的の変革的利用だ」と主張しています (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic) (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic)。実際に、モデルが訓練データから学ぶのは概念やパターンであり、特定の文章を一字一句記憶してそのまま出力すること(「丸暗記の吐き出し」)は稀だとも説明されています (OpenAI and journalism | OpenAI)。OpenAIも「AIモデルの訓練は広義の学習・研究であり、判例が支持するフェアユースだ」と公式ブログで明言しています (OpenAI and journalism | OpenAI)。

一方で権利者側の懸念は、「AIが作品を”吸収”してしまえば、元の作り手に正当な報酬や許諾の機会がなく、挙句にAIが代替品となって収入源を奪うのではないか」というものです (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic)。実際、生成AIが書いた文章や描いたイラストが人間の作品と競合し始めており、作家やアーティストが仕事を失う可能性も指摘されています (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic)。またAIが訓練データから一部をそのまま出力してしまうケース(メモリーした文章の「リーク」)も完全には否定できず、現にChatGPTが小説の一節をそのまま吐き出したとの報告もあります。このような場合、AIが原著作物を無断複製・再配布しているとして著作権侵害に当たる可能性があります。

こうした対立する見解の中、訴訟も相次いでいます。2023年後半にはニューヨーク・タイムズ紙など大手報道機関が、許可なく記事を学習データに用いたとしてOpenAIを提訴しました (Training Generative AI Models on Copyrighted Works Is Fair Use — Association of Research Libraries)。著名コメディアンで作家のサラ・シルバーマン氏らも、自身の執筆した小説が無断でChatGPTやMeta社のAI(LLaMA)の訓練に使われたとして集団訴訟を起こしています (Sarah Silverman sues OpenAI, Meta for being “industrial-strength …)。画像分野ではGetty Images社が、ストックフォト数百万点を無断使用したとして画像生成AI・Stable Diffusionの開発元を訴えています(米国および英国で係争中) (Getty Images CEO: Respecting fair use rules won't prevent AI from …)。さらに音楽業界やプログラミングのソースコードを巡る問題など、「AI vs. 著作権者」の構図は様々な領域に広がりつつあります。

一連の訴訟で焦点となっているのは、AIの学習行為自体が著作権侵害に該当するかという点です。現行法では明確な規定がなく、裁判所の判断に委ねられています。OpenAIやMetaは「AIによる学習は変革的利用(transformative use)でありフェアユースだ」と主張していますが (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog) (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)、著作権者側は「目的は営利であり作品を大量コピーしており、創作市場に悪影響を及ぼすからフェアではない」と反論しています (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic) (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic)。法律の専門家からも「この問題に正面から答えた判例はまだなく、最終判断は数年かけて持ち越されるだろう」とする見通しが示されています (Why is OpenAI allowed to use copyrighted material for training their AI models? : r/legaladviceofftopic)。まさに法的グレーゾーンであり、AI企業と権利者の緊張関係が続いている状況です。

米国におけるフェアユースの裁判例

AIの訓練データ問題を考える上で、過去の米国フェアユース判例が重要なヒントになります。有名なものにGoogle Books裁判(Authors Guild v. Google)があります。これはGoogle社が世界中の蔵書をスキャンして全文検索できるデータベース「Googleブック検索」を構築したことに対し、著作者団体が著作権侵害で訴えた事件です。

Googleは図書館と提携して数百万冊の書籍を無断でスキャンし、検索結果として一部の「スニペット(抜粋)」を表示できるサービスを提供しました (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。当初、判事は「許諾なき大量コピーは違法」とGoogle側に責任を認めましたが、最終的には判断を覆し、2013年に「Googleの書籍スキャンはフェアユースである」との結論を下しました (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。決め手となったのは「目的が変革的である」という点でした (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。つまり、Googleは本を丸ごとコピーはしたものの、それをそのまま販売したり配布したわけではなく、検索という新たな機能を生み出していたのです。裁判所は「Google Booksは本の市場を奪うどころか、検索によって読者が新しい本に出会う機会を増やし、むしろ販売を促進している」と評価しました (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。原著作者に大きな経済的損害が生じていないどころか利益があるとも言えるため、社会的に有益なフェアユースだと判断されたのです。

このGoogle Books判決は、「大量の著作物をデータベース化しても、新しい付加価値を提供するなら許される」という強い先例となりました。AI企業はこれを追い風に、「大規模言語モデルの訓練も人間の言語能力向上という新たな価値創造である」と主張しています (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。実際、OpenAIも先述のニューヨーク・タイムズからの訴訟に対し、「確立された判例に照らせば、大量の著作物をAI学習に取り込む行為は概ねフェアユースに当たる」と反論しています (Training Generative AI Models on Copyrighted Works Is Fair Use — Association of Research Libraries)。

しかし、フェアユースの判断はケースバイケースであり、常に技術の進歩や社会の受け止め方によって揺れ動きます。直近の米最高裁判例である「アンディ・ウォーホル対ゴールドスミス事件」(2023年)は、その難しさを浮き彫りにしました (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。このケースでは、画家アンディ・ウォーホルが写真家リン・ゴールドスミスの撮影したポートレート写真を元に作品を制作したことが争われました。ウォーホルの絵画はオリジナル写真を大胆に色彩加工したものでしたが、一部では「十分に変容しており別物だ」と支持する声もありました。しかし最高裁の判断は「フェアユース不成立」。理由は「ウォーホルの絵が元写真と同じ雑誌の表紙という用途で使われ、オリジナルと競合してしまった」ためです (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。裁判所は変革性よりも市場への影響を重視し、商業目的での無断利用に厳しい姿勢を示しました。

このように、フェアユースの適用は一様ではなく予測が難しいのが現状です (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。著名な法学者ウィリアム・パトリー氏も「フェアユースの判断は事実関係に強く依存し、その時代の社会的気分を反映する」と述べています (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。AIのケースでも、Google Booksのように肯定されるか、ウォーホル事件のように否定されるか、司法の判断は揺れうると言えるでしょう。

現時点(2025年初頭)で、AIの訓練行為そのものがフェアユースかどうかについての明確な判例はまだ確立していません。上述のニューヨーク・タイムズ対OpenAI訴訟や作家たちによる集団訴訟など、今後数年で結論が出る訴訟の行方が重要な意味を持ちます。それゆえOpenAIは早期に政府に働きかけ、「訴訟で争うのではなく、政策としてAIの学習を認めてほしい」と訴えているのです ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。

主要AI企業の対応策と競争環境

OpenAI以外の大手AI企業も、この著作権問題に神経を尖らせつつ対応策を模索しています。

  • Google(Alphabet): AI分野のもう一つの巨頭であるGoogleも、大規模言語モデル「PaLM」や対話AI「Bard(Gemini)」の開発にあたり、ウェブ上の大量データを活用しています。Googleは過去にGoogle Books裁判でフェアユース勝訴を勝ち取った経緯もあり、基本的立場は「大量データの活用は技術革新に不可欠」という点でOpenAIと一致します。ただし近年は出版社やニュースメディアとの摩擦を避けるため、コンテンツ提供者との提携にも動いています。例えば2023年7月、GoogleはAP通信と契約を結び、自社のAIにAPのニュース記事アーカイブを学習利用するライセンスを取得しました (Google signs deal with AP to deliver up-to-date news through its Gemini AI chatbot | The Associated Press)。さらに2025年1月には、APからの最新ニュースフィードをAIチャットボット「Gemini」に提供する取り決めも発表しています (Google signs deal with AP to deliver up-to-date news through its Gemini AI chatbot | The Associated Press)。他にもNews Corp(ウォールストリートジャーナルの親会社)と年500万ドル規模の協力関係を結び、AI関連の新コンテンツ開発に投資するとの報道もありました (Google to pay up to $6 mln to News Corp for new AI content, The Information reports | Reuters) (Google to pay up to $6 mln to News Corp for new AI content, The Information reports | Reuters)。こうした提携は公式には「ライセンス契約ではない」とされますが (Google to pay up to $6 mln to News Corp for new AI content, The Information reports | Reuters)、実質的にはAI訓練用データの提供に対する報酬とみられています。
  • Meta(旧Facebook): Meta社も研究機関などと共同で大規模言語モデル「LLaMA」シリーズを開発し、一部モデルをオープンソースで公開しています。LLaMAの訓練には公開ウェブデータが幅広く使われたとされ、学術論文やGitHub上のソースコードなども含まれていました。Metaは自社プラットフォーム(FacebookやInstagram)の膨大なユーザーデータも抱えており、こちらもAI訓練に活用している可能性があります(利用規約で許諾を得ている範囲で)。2023年7月には、前述のサラ・シルバーマン氏らによって「Metaが著作権表示を削除した書籍データを無断利用しLLaMAを訓練した」との訴えが提起されました (Sarah Silverman's Meta copyright lawsuit advances as judge allows …) (Sarah Silverman sues OpenAI, Meta for being “industrial-strength …)。Meta側は訴訟で争う構えを見せつつも、OpenAIと同様に「AIの訓練は変革的なフェアユース」と主張するとみられます。また、欧州など他地域のルールにも適応する必要があり、例えばEUでは2024年以降の生成AIに訓練データの開示義務を課すAI規制法(AI Act)が予定されているため、対応を迫られています。
  • Anthropic: Anthropic社はOpenAI出身者が立ち上げたAI企業で、チャットボット型AI「Claude」を開発しています。Anthropicも基本的にインターネット由来の大規模データセットでモデルを訓練しており、著作権への対応方針はOpenAIに近いと考えられます。現時点でAnthropicが大きな訴訟に巻き込まれた例はありませんが、同社もまた法的不確実性に直面しています。AnthropicやGoogle、MicrosoftとOpenAIなどは協力して「フロンティアモデル・フォーラム」を結成し、政策提言やAIの安全な開発について連携しています。著作権問題についても水面下で他社と足並みを揃え、必要なら法廷で共同歩調を取る(友好的な意見書を提出し合う等)可能性があります。
  • その他の企業・オープンソースコミュニティ: AI開発競争は上記の大手だけでなく、スタートアップ企業やオープンソースのコミュニティにも広がっています。画像生成AIではStable Diffusionを支えるオープンソース組織(Stability AIやLAIONなど)があり、こちらはネット上の画像(著作権付き画像も含む)を無数に収集してモデルを訓練しました。その結果、先述のGetty Imagesから訴訟を起こされる事態となっています。また大手ではありませんが、音楽AI分野でGoogle傘下の研究チームが無断利用の指摘を受けた例や、ゲーム業界でAIが他社ゲームのアセットを学習したと疑われた例など、様々な現場で著作権とAIの摩擦が見られます。

全体として、主要プレイヤーの戦略は「法的グレーの部分はフェアユースに頼りつつ、重要なデータ提供者とは個別に契約してリスクヘッジする」方向に動いています。例えばOpenAIは一部の新聞社とコンテンツ提供契約を締結し始めています(英フィナンシャル・タイムズ紙や独Axel Springer社など (Google to pay up to $6 mln to News Corp for new AI content, The Information reports | Reuters))。また、OpenAIは2023年に著作権者が自分のサイトをクローリング(収集)対象から除外できるオプトアウト制度も業界で先んじて導入しました (OpenAI and journalism | OpenAI)。このように、「フェアユースで押し通す部分」と「権利者に配慮・補償する部分」のバランスを取りながら各社は競争を続けています。

OpenAIが懸念するのは、仮に米国で裁判所が「AI訓練はフェアユースではない」と判断したり、厳格な規制法が制定された場合、こうした折衷戦略が通用しなくなる点です。そうなれば、望むデータはすべて個別にライセンス許諾を得る必要が生じ、莫大なコストと時間がかかります。体力のある大企業は対応できても、スタートアップや研究機関はAI開発そのものを断念せざるを得ないかもしれません。さらに、米企業が萎縮している間に規制の緩い国の企業が先行してしまうリスクもあります。OpenAIが「中国に遅れを取る」と訴えているのはまさにこの点で、事実、中国では大規模AIモデルが続々と開発されており、中にはChatGPTに匹敵する性能を謳うものも出てきています ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。例えば記事執筆時点で話題となった中国製チャットAI「DeepSeek」は、米国のApp Storeで一時ChatGPTを抑えてダウンロード上位になるなど、存在感を示しています ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。

政策立案者や法曹界の反応・見解

OpenAIの声に対し、米国の政策立案者や法律専門家たちはどのように反応しているのでしょうか。

政府・議会の動き: 2023年頃から、米議会ではAIに関する公聴会や法案の準備が活発化しました。サム・アルトマン氏(OpenAI CEO)が上院委員会で証言し、AIの安全規制やプライバシー問題が議論されましたが、著作権についても議員から質問が出ています。ただ、この時点で具体的な立法措置はまだ形成途中です。議員の中には「生成AIがクリエイターの職を脅かす可能性」に懸念を示す声もあり、クリエイター側のロビー団体(全米作家協会 Authors Guild 等)は「AI企業に作品使用の許諾と対価を義務付ける法律」を求めています。一方で政府内には「過度な規制は技術競争力を削ぐ」と慎重な意見も根強く、ホワイトハウスはAI開発企業との対話を重ねつつバランスを模索しています。

2024年には米国著作権局(Copyright Office)がAIと著作権に関する詳細な調査報告書を段階的に発表し始めました。同局はまずAI生成物の著作権に関する報告(パート2)を2025年1月に公開し、「完全自動で生成された作品には著作権は認められず、人間が創意工夫を加えた部分のみ保護される」との方針を確認しました (Copyright Office Releases Part 2 of Artificial Intelligence Report) (Copyright Office Releases Part 2 of Artificial Intelligence Report)。続くパート3では、AIの訓練データ利用(インプット側)について検討すると予告されており、フェアユースの在り方や必要なら新法の提案について触れられる見込みです。著作権局は「現行法は新技術にも概ね対応可能」との立場ですが (Copyright Office Releases Part 2 of Artificial Intelligence Report)、世論や業界の意見も踏まえつつガイダンスを示すものと見られます。

法曹界・専門家の見解: 著作権の専門家の間でも、AIとフェアユースを巡る見解は割れています。スタンフォード大学の著名な法学者マーク・レムリー氏ら多くの学者は、図書の全文検索を認めたGoogle Books判決などを引き合いに「AIの訓練は十分に変革的でありフェアユース適用が妥当」との意見書をまとめています (OpenAI and journalism | OpenAI)。また米国図書館協会などライブラリー業界も「知識の蓄積と分析は公共の利益であり、新たな例外規定を設けてでもAIの学習利用を認めるべきだ」と支持しています (OpenAI and journalism | OpenAI)。2023年には米著作権局の意見募集に対し、学界・産業界・スタートアップ企業・市民団体まで幅広い層から「AI訓練の自由」を求める声が寄せられました (OpenAI and journalism | OpenAI)。OpenAIが公式ブログで「この原則(訓練はフェアユース)は米国の国際競争力に不可欠」と訴えたように (OpenAI and journalism | OpenAI) (OpenAI and journalism | OpenAI)、国家戦略・安全保障の観点からもフリーな学習を認めるべきだとの論調があります ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。

一方で著作者側の専門家は、「フェアユースは本来、批評や教育など限定的な場合のためのもので、営利企業が数百万作品を無断利用することまで想定していない」と批判しています。全米作家協会は「AI企業が我々の作品を“吸い尽くして”利益を上げている」と強い表現で非難し、司法に厳格な判断を求めています。また音楽業界団体や写真家団体なども、それぞれの分野で同様の懸念を示しており、「このままでは創作者が正当な対価を得られない時代になってしまう」という警鐘を鳴らしています。

興味深いことに、メディア業界では対応が分かれています。ニューヨーク・タイムズなど一部は訴訟に踏み切りましたが、他方でNewsコープやAP通信のようにAI企業と契約して収入源を確保する動きもあります (OpenAI Argues US Will Forfeit AI Lead to China) (Google to pay up to $6 mln to News Corp for new AI content, The Information reports | Reuters)。メディア各社は自社コンテンツがAIに「盗まれる」懸念と、新たな収益機会への期待との間で揺れ動いており、政策当局に対しても「持続可能な報道のためにAI時代のルールを整備してほしい」と要望しています。米カリフォルニア州ではニュース記事使用料の支払いをGoogleなどに義務付ける州法案も検討されましたが(最終的に棚上げ)、このように州レベルでも試行錯誤が始まっています (California Tried To Make Google Pay News Outlets. The Company …)。

総じて、政策立案者らはイノベーション推進クリエイター保護の両面を考慮しつつあります。OpenAIの訴えにある「自由に学習できる環境」を認めないと米国が競争で不利になるという主張 ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday) ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)は、国家競争力を重視する政治家には響くポイントです。一方でクリエイターの権利保護は超党派で支持されるテーマでもあり、選挙区の有権者(作者や労働者)の声を無視できません。結果として、現状維持(フェアユースに委ねる)か、新たな法制度を作るか、米国は慎重なかじ取りを迫られている状況です。

今後の展望:AI業界と著作権問題の行方

AIによる著作物無断学習を巡る問題は、今後どのように展開していくのでしょうか。いくつかのシナリオが考えられます。

  1. フェアユースとして司法が容認: 最終的に米国の裁判所が「AI訓練はフェアユース」と明確に判断すれば、OpenAIらAI企業にとって追い風です。この場合、現行のビジネスモデル(膨大な公開データからの学習)を大きく変える必要はなくなり、イノベーションのスピードを維持できるでしょう。ただし、裁判所が認めても権利者の不満が消えるわけではありません。倫理面や企業イメージの観点から、AI企業は引き続きコンテンツ提供者との良好な関係構築に努めると考えられます。具体的には、任意のデータ提供契約や収益分配、著作者への新たな支援策(クリエイター基金の創設など)が模索されるでしょう。
  2. 法改正による新たなルール形成: 仮に司法判断が定まらなくとも、議会が新たな著作権例外やライセンス制度を設ける可能性もあります。例えば、「データマイニング目的での複製を包括的に許諾する代わりに、AI企業が補償金を支払う」ような強制ライセンス制度や、業界団体を通じた包括契約の仕組みです。これは音楽業界でラジオ局が楽曲を流す際に包括ライセンスを使うのに似ています。このような制度が整えば、AI企業は法的リスクなしにデータを利用でき、クリエイター側も一定の収入を得られるウィンウィンの関係が築けるかもしれません。ただし利害調整は容易ではなく、実現には時間を要するでしょう。
  3. データ利用の厳格化と競争環境の変化: 逆に、もし司法が「AI訓練はフェアユースではない」と判断したり、規制が厳格化すれば、AI業界には激震が走ります。OpenAI自身が「それではAI競争は終わる」と言う通り ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)、米国企業の開発スピードが鈍り、中国など規制の緩い国の企業が台頭する展開も考えられます ('AI race is over for us if…': Why Sam Altman-led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform - 'AI race is over for us if…': Why Sam Altman led OpenAI warned US could fall behind China without copyright reform BusinessToday)。この場合、米国としては国家戦略上黙っていられず、再度ルール緩和に舵を切る可能性もあります。あるいは、企業側が代替手段を模索するかもしれません。例えば、より多くのパブリックドメイン(著作権切れ)資料やクリエイティブ・コモンズライセンス作品、あるいは人工的に作成した合成データを訓練に使うなどです。しかし現実問題として、人間が日々生み出す最新の知的財産こそが貴重な学習材料であり、それを除外しては高度なAIを作り出すのは困難です。したがって、業界全体でデータ確保に奔走し、市場には「データを持つ者が勝つ」構図が強まるでしょう。巨大IT企業は自社プラットフォームで得たユーザーデータ(例: 検索エンジンのクエリログやSNS投稿)を武器にできる一方、中小プレイヤーは提携や共有で対抗する必要があります。
  4. 国際的な調和と競争: AIと著作権の問題は米国だけでなく世界的な課題です。欧州連合(EU)は著作権法にテキスト・データマイニングの例外規定を設け、学術研究目的のデータ利用を認めています。また日本も2018年に著作権法を改正し、AI開発目的での著作物利用(情報解析)は包括的に合法化しました (OpenAI and journalism | OpenAI)。シンガポールやイスラエルなども同様の規定を持っています (OpenAI and journalism | OpenAI)。このように各国で対応が分かれる中、グローバル企業はどのルールに合わせればいいのか悩ましい状況です。今後、WIPO(世界知的所有権機関)や貿易協定の場で国際的なルール調整が議論される可能性があります。米国も国益を守るため各国との交渉に臨むでしょう。OpenAIが「他国の厳しい法規制が米国企業に影響を及ぼさないようにしてほしい」と政府に求めたとの報道もありました (OpenAI Calls on U.S. Government to Let It Freely Use Copyrighted …)。つまり、「他国のルールに米企業が縛られてはならない」という主張で、例えばEUがAI訓練に著作権料を課す制度を作っても、それを米国内には波及させないよう外交的に働きかけるといった戦略も示唆されています (OpenAI Calls on U.S. Government to Let It Freely Use Copyrighted …)。

最後に、AIと著作権の問題は単に法律やビジネスの話に留まりません。根底には「人間の創造性とAIの役割」という哲学的問いかけもあります。AIが既存の創作物を学習して新たな創作物を生み出す時、その功績は誰のものなのでしょうか? 人々がAIによる生成物に価値を見出す一方で、人間のクリエイターが正当な評価を受け続けるにはどうすれば良いのでしょうか? こうした問いに社会が答えを見つけていくプロセスそのものが、今後のルール形成に影響を与えるでしょう (Is Generative AI Fair Use of Copyright Works? NYT v. OpenAI - Kluwer Copyright Blog)。

OpenAIの「AI競争は終了する」との発言は危機感に満ちたものですが、逆に言えば「適切なルール整備次第でAI競争は持続可能だ」というメッセージでもあります。創作者とAI開発者が共存共栄できる道を探ることが、これからのデジタル時代における重要な課題となるでしょう。

参考文献

OpenAIの発言・公式声明に関する情報

AIの学習データ利用を巡る議論・訴訟に関する情報

競合他社の対応策・業界動向に関する情報

政策立案者・法曹界の見解に関する情報