ChatGPTのウェブ検索機能と仮想サンドボックスの技術解説

ChatGPTのDeep Research(AI)での出力結果をそのまま掲載しています。ChatGPTのDeep Researchはハルシネーション(誤った情報の生成)が少なくなるよう調整されていますが、あくまで参考程度に読んでください。当記事は検索エンジンに登録していないため、このブログ内限定の記事です。

はじめに

読者:「ChatGPTって、どうやってネット検索してるの?AIなのに最新の情報を答えられるのは不思議だわ。」
語り手:「それでは、一緒にChatGPTの“ウェブ検索機能”の裏側を探ってみましょう!」

本稿では、OpenAIが提供する対話型AIであるChatGPTのウェブ検索機能について、その技術的仕組みを初心者にも分かりやすく解説します。特に、仮想サンドボックス(外部から隔離された安全な実行環境)や安全な検索処理(不適切なコンテンツを除外する検索上の工夫)に焦点を当て、ChatGPTがどのようにインターネット上の情報を取得・利用しているのかを紐解いていきます。

ChatGPTは2022年に公開されて以降、その豊富な知識と自然な対話能力で注目を集めました。しかし当初のChatGPTは学習データが2021年までに限られており、それ以降の新しい情報にはアクセスできませんでした (Google's AI chatbot “Bard”: a side-by-side comparison with ChatGPT …)。利用者からは「もっと最新の情報も教えてほしい!」という声が多く寄せられました。その要望に応える形で、2023年3月にOpenAIはChatGPTに外部機能を組み込む「プラグイン(拡張機能)」を導入します (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。その中で特に重要なのがウェブ閲覧プラグイン(Browse機能)と、コード実行プラグイン(ChatGPTコードインタープリタ)です。前者はインターネットから最新情報を取得するための機能、後者はChatGPTが安全な環境でコードを実行するための機能で、それぞれ安全性に配慮して設計されています (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。

以降では、このウェブ検索機能(Browse with Bingと呼ばれます)がどのように動作しているのか、また安全に運用するためにどんな工夫(仮想サンドボックスやフィルタリングなど)が凝らされているのかを、読者の疑問に答える形で順番に見ていきましょう。

ChatGPTのウェブ検索機能とは

まずはChatGPTのウェブ検索機能そのものについて概観します。これはChatGPTがインターネット上の情報にアクセスし、ユーザーの質問に対してリアルタイムのデータや最新の情報を提供できるようにするための仕組みです。

元々、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)は事前に与えられた大量のテキストデータを学習して知識を得ています。しかし、その学習が終了した後に新たに発生した出来事や最新のデータは、モデル単体では知ることができません。例えば、2022年に起きたニュースや最近のスポーツの結果を尋ねても、学習範囲外のため答えられないのが通常のChatGPTでした。

そこで登場したのが、ChatGPTにウェブ検索の能力を与えるプラグインです。この機能をオンにすると、ChatGPTは自ら検索エンジンを利用してウェブ上から情報を取得し、それを会話の中で活用できるようになります。OpenAIはこれを実現するためにBrowse with Bing(ビングで閲覧)と呼ばれる機能をChatGPT Plusのユーザー向けに提供しました (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)。名前が示す通り、これはMicrosoftの検索エンジン「Bing」と連携した機能です。

しかし、「AIが直接ウェブを閲覧する」と聞くと、「一体どうやって?AI自身がブラウザを操作しているの?」と疑問に思うかもしれません。実際には、ChatGPTが魔法のように自力でインターネットを徘徊しているわけではなく、背後で専用の仕組みが動いています。その鍵となるのがプラグインシステム仮想サンドボックスです。次章では、まずChatGPTがなぜ直接インターネットにつながっていないのか、その理由から説明しましょう。

ChatGPTが直接インターネットに接続されていない理由

読者:「そもそも、なぜChatGPTは直接ネットに繋がっていないの? 最初からネット検索できれば便利なのに。」
語り手:「いい質問ですね。それには安全性信頼性の観点から明確な理由があるのです。」

ChatGPTがサービス開始当初からインターネットに接続されていなかったのは、主に安全性品質管理のためです。巨大な言語モデルに無制限にインターネットを使わせると、様々なリスクが考えられます。

  • 不適切な情報へのアクセスリスク: インターネット上には玉石混交の情報が存在します。悪意のあるサイトや有害なコンテンツにも簡単に行き当たります。ChatGPTが無防備にネットから情報を引っ張ってくると、誤情報や有害な内容をそのままユーザーに伝えてしまう恐れがあります。そこでOpenAIは、まずモデル単体での対話に限定し、徐々に慎重にインターネット接続機能を試す方針を取りました (ChatGPT plugins | OpenAI) (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  • ユーザープライバシーとセキュリティ: もしChatGPTが直接ウェブアクセスできる場合、ユーザーの入力したプロンプト(質問文や指示文)がそのまま外部サイトへのリクエストになる可能性があります。これはプライバシー情報が第三者(検索エンジンやウェブサイト)に漏れるリスクを伴います。また、インターネットから攻撃的なコードやウイルスを拾ってきてしまうリスクもあります。そこでOpenAIは、ChatGPTと外部ネットワークの間に“壁”を設け、直接の双方向通信を遮断しました。この壁こそが「エアギャップ」(物理的・論理的にネットから隔離すること)とも言えるポリシーです (The AI safety debate is focusing on the wrong threats)。その結果、ChatGPTは原則として訓練データ内の情報のみを使い、2021年以降の新規情報にはアクセスできない状態で公開されたのです (Google's AI chatbot “Bard”: a side-by-side comparison with ChatGPT …)。
  • 計算資源とコスト: 実は、チャット中の質問ごとにインターネット検索を行うのは計算資源的にも大きな負荷がかかります。多くのユーザーが同時にChatGPTを利用する中で、その都度ネットへの問い合わせを行うと応答時間も延び、運用コストも跳ね上がります。まずはオフライン環境で安定した対話モデルを提供し、その上で必要な場合にのみ外部検索をする形が望ましいと判断されたと考えられます。

以上の理由から、ChatGPTは「一旦は外界と切り離されたAI」として設計・公開されました。そして、ユーザーからのフィードバックや技術の進展を踏まえて、必要な安全対策を講じた上で段階的にネット接続機能を試していくという慎重なアプローチが取られたのです (ChatGPT plugins | OpenAI)。

その第一歩が、限定的な環境下でのブラウジング、すなわちプラグインを介したプロキシ的な検索でした。次に、ChatGPTにウェブ検索能力を与える際に鍵となった「仮想サンドボックス」について解説し、その後に具体的なBrowse機能の動作を見ていきましょう。

仮想サンドボックスの技術的意味と役割

読者:「仮想サンドボックスってよく聞くけど、具体的には何?」
語り手:「では、身近な例えで説明しましょう。仮想サンドボックスとは砂場の遊び場のようなものです。」

仮想サンドボックスvirtual sandbox)とは、コンピュータの中に作られた隔離環境のことです。まるで砂場(サンドボックス)で子供が遊ぶように、プログラムを周囲に影響を与えない囲いの中で実行する仕組みを指します。これによって、その中で起こったこと(プログラムの暴走やウイルスの実行など)が外の本番環境に悪影響を及ぼさないようにできます。

技術的には、仮想マシンやコンテナ、セキュアエンクレーブなど様々な実装がありますが、共通する目的は「危険性のある処理を安全に隔離して行うこと」です。例えば怪しいファイルを開くときに仮想環境内で開いてPC本体を守る、ブラウザ自体がサンドボックス内で動作してシステムへの攻撃を防ぐ、といった応用があります。

ではChatGPTにおけるサンドボックスの役割は何でしょうか? OpenAIはChatGPTにプラグイン機能を追加するにあたり、「モデルに外部のツールを使わせるなら、その実行環境は厳重に管理しよう」という姿勢を取っています。具体的には以下の2つの場面でサンドボックスが使われています。

  • ウェブ閲覧プラグインの隔離: ChatGPTがウェブ上のページを閲覧・取得する処理は、OpenAIの内部でも他のシステムから隔離されたサービス上で行われます (ChatGPT plugins | OpenAI)。言い換えれば、ChatGPT本体(対話モデルが動作するサーバ群)とは分離された専用の“小部屋”が設けられ、そこでのみウェブとのやり取りが完結するようになっています。この小部屋が「ブラウジング用サンドボックス」です。例えばChatGPTが誤って不正なサイトにアクセスしたり、大量のデータを読み込んだりしても、本体のシステムには直接触れられない設計になっています (ChatGPT plugins | OpenAI)。外部との通信部分をサンドボックスに閉じ込めることで、セキュリティを保ちつつネット利用を可能にしているのです。
  • コード実行プラグインの隔離: ChatGPTにはもう一つ、ユーザーの要望に応じてPythonコードを実行するコードインタープリタ(現在は「高度なデータ分析」とも呼ばれる)プラグインがあります。このプラグインでは、与えられたコードをサンドボックス化されたファイアウォール内の実行環境で動かす仕組みを採用しています (ChatGPT plugins | OpenAI)。これにより、AIが生成・実行するコードが万一悪意のある処理を含んでいても、外部ネットワークへのアクセスは遮断され(コードサンドボックスではインターネットアクセスが禁止されています (ChatGPT plugins | OpenAI))、ホストシステムへの影響も極力抑えられます。リソース(メモリやCPU時間)にも制限を設け、暴走的な振る舞いができないようにしているのも特徴です (ChatGPT plugins | OpenAI)。

まとめると、仮想サンドボックスはChatGPTに外部機能を持たせる際の安全弁として機能しています。ブラウジングでは「ウェブとのやりとりを隔離」、コード実行では「プログラムの動作を隔離」することで、ChatGPTが安心して外部の力を借りられるようにしているのです。これにより、ChatGPTは直接ネットに繋がっていなくても、安全な手順で外部情報を取り込み、ユーザーに提供できるようになります。

では具体的に、ChatGPTがウェブ検索(Browse with Bing)を行う際、このサンドボックス環境で何が起きているのか、その仕組みを詳細に見てみましょう。

Browse with Bing機能の仕組み

読者:「ChatGPTがBingで検索して情報を取ってくるって言うけど、どういう流れで動いているの?」
語り手:「では、ChatGPTがインターネット情報を取得し回答に活用するまでの一連の流れを追ってみましょう。」

ChatGPTのBrowse with Bing機能は、内部的には「検索エンジン(API)+テキストブラウザ+言語モデル」という三位一体の連携で動いています。それぞれの役割と処理の流れを順を追って説明します。

Bing検索APIによるプロキシ検索

ChatGPTは自前でウェブクローラを持っているわけではなく、まず検索エンジンの力を借ります。OpenAIはMicrosoftと提携していることもあり、Browse機能ではBingの検索APIが使われています (ChatGPT plugins | OpenAI)。具体的には、ChatGPTがユーザーからの質問を受け取ると、その質問内容に応じて「検索クエリ」を作成し、BingのWeb検索サービスに問い合わせを行います。

このBing検索APIへの問い合わせは、ChatGPT本体が直接行うのではなく、先述したブラウジング用の隔離サービスが代理で行います。いわばChatGPTの「プロキシ(代理)として動く検索クライアント」がBingに接続し、検索結果を取得するのです。そのためChatGPT自身は依然としてインターネットとは直接つながっておらず、検索APIという窓口を通じて情報を得ている形になります。

Bing検索APIが返すのは、通常のウェブ検索と同じように検索結果の一覧です。上位何件かのページタイトルとスニペット(要約)が返されるので、ChatGPTはその中から内容に関連しそうなリンクを選択します。この際、Bing側で既にある程度の信頼性の判断有害コンテンツの除外が行われています。実際、OpenAIは「Microsoftによる情報源の信頼性評価やセーフモード(有害なコンテンツを避けるフィルタ)の恩恵を受けている」と述べています (ChatGPT plugins | OpenAI)。これはBingの持つ検索品質・安全性技術をそのまま活用していることを意味します。例えば、露骨なアダルトサイトや違法な情報はBingのSafeSearch機能でヒットしにくくなっており、ChatGPTの検索結果からも自然と排除されます (ChatGPT plugins | OpenAI)。

選ばれた検索結果のURLは、次にテキストベースのウェブブラウザへと引き渡され、実際のページ内容を取得する段階へ進みます。

テキストベースのブラウザによる情報取得

検索によって興味深い結果(ウェブページ)のURLを得たChatGPTは、次にそのページの内容を読みに行きます。ただし、ここでも通常のウェブブラウザ(ChromeやFirefoxのようなもの)を動かすわけではありません。ChatGPTが使うのはテキストベースの簡易ブラウザです (ChatGPT plugins | OpenAI)。

テキストベースのブラウザとは、画像や動画、スクリプトなどを実行せずテキスト情報だけを取得・表示する簡易なブラウザのことです。例えば昔からある「Lynx(リンクス)」のように、文字情報だけでウェブページを見るものを想像すると分かりやすいでしょう。ChatGPTのブラウズ機能も同様に、ページのHTMLから本文テキストや見出しといった文章情報だけを抽出します。これにより、余計なスクリプトを実行してウイルスに感染したり、大量の画像をダウンロードして帯域を無駄遣いしたりするのを防いでいます (ChatGPT plugins | OpenAI)。

さらに安全策として、このブラウザはGETリクエスト(データ取得要求)だけに限定されています (ChatGPT plugins | OpenAI)。つまり、単にページを読むことしかできず、フォームに入力して送信(POSTリクエスト)したり、ボタンをクリックして何かアクションを起こすことはできません (ChatGPT plugins | OpenAI)。これにより、万一悪意のあるサイトが「クリックすると有害な操作をするボタン」を置いていても、ChatGPTはそれを実行する術がなく、安全が保たれます。OpenAIは「フォーム送信のようなトランザクション操作(取引型の操作)を除外し、情報取得専用に絞ることで、安全性上のリスクが高まるのを避けている」と説明しています (ChatGPT plugins | OpenAI)。

ブラウザがページのテキストを取得すると、その内容は一度ChatGPT側(正確にはブラウズ用サンドボックス内)に取り込まれます。ただし、ページ全文をまるごと読むとは限りません。ページが長大な場合は一部を読むか、あるいはChatGPTが関心のあるキーワード周辺だけを抽出することもあります(このあたりは内部的な最適化が行われます)。時にはページ内検索(Find機能)で特定の語を探すことも可能です (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)。まさにChatGPTは人間がウェブ調査するときのように、検索し、ページを開き、必要箇所を探すという動作をテキスト上で模倣しているのです (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI) (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)。

検索から回答生成までの流れ

以上の「検索結果取得」と「ページ内容取得」の二段階を経て、ChatGPTはようやく最新情報を自分の手元に収集したことになります。ここからは言語モデルとしての本領発揮です。集めたテキスト情報を元に、ユーザーの質問に対する回答を作成します。

ポイントは、ChatGPTは自分で読んだ内容を踏まえて回答するため、回答の根拠を示すことができるという点です。実際、Browse機能を使ったChatGPTの回答には参照元(出典)としてURLが脚注付きで提示されます (ChatGPT plugins | OpenAI)。例えば「○○という記事によれば△△です (ChatGPT plugins | OpenAI)」という風に、情報の出典を回答文中に明示します。これは単に親切なだけでなく、回答の信頼性を裏付け、ユーザー自身が検証できるようにする大切な仕組みです (ChatGPT plugins | OpenAI)。OpenAIも「引用による透明性の向上は、ユーザーがモデルの回答の正確さを検証する助けになると同時に、コンテンツ制作者へのクレジットを戻すものだ」と述べています (ChatGPT plugins | OpenAI)。

一連の流れをまとめると以下のようになります。

  1. ユーザーの質問解析: ChatGPTがユーザーの質問内容から検索が必要と判断し、適切な検索クエリを生成。
  2. Bing検索APIに問い合わせ: 隔離されたブラウズサービスがBing APIを使い、そのクエリでウェブ検索を実行。検索結果リストを取得 (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  3. 検索結果の評価と選択: ChatGPTが検索結果のタイトル・要約を読み、質問に答えるのに有用そうな候補を選ぶ。必要に応じて複数の候補を順に調べる。
  4. ウェブページ内容の取得: 選んだURLに対し、テキスト専用ブラウザがアクセスしページの文章を取得。GETリクエストのみ実行し、安全にテキスト情報を得る (ChatGPT plugins | OpenAI)。ページが長い場合は重要部分を抽出。
  5. 内容の読解と統合: 得られたテキスト情報をChatGPTが読んで理解し、質問への回答に使える知識を整理。場合によっては追加で別の検索やページ閲覧も繰り返す。
  6. 回答の生成: 収集した情報と元々の知識を組み合わせ、ユーザーの質問に対する最終的な回答を文章として生成。回答中に参照箇所があれば出典リンクを添える (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  7. 回答の提示: ユーザーに回答を表示。どのサイトから情報を引用したか明示された形で、会話画面に出力される。

このプロセスのおかげで、ChatGPTはまるで自分でネットサーフィンをしたかのように最新の情報を入手し、それを反映した回答を返せるのです。後ほど具体例を示しますが、例えば「今朝の株価は?」と聞けばChatGPTは株価情報サイトを検索して結果を読み取り、最新の株価を答えることができます。また「今年のオスカー賞の受賞者は?」という問いにも、ニュース記事を探して確認し、答えられるようになりました。実際、OpenAIのデモではChatGPTが「最新のアカデミー賞(Oscars)の結果」を検索で調べ、その情報を踏まえて詩的な回答を作るという例が紹介されています (ChatGPT plugins | OpenAI)。これは従来の訓練データだけでは不可能だった芸当で、Browse機能によりChatGPTの知識の幅がリアルタイムに拡張されたことを示す一例です。

以上がBrowse with Bing機能の一連の仕組みです。では、こうした検索機能を安全かつプライバシーに配慮して提供するために、どのような工夫が盛り込まれているのか、次に詳しく見ていきましょう。

セキュリティとプライバシー保護の設計

読者:「ネットから色々情報を取ってくるのは便利だけど、セキュリティとか大丈夫なの?変なサイトに引っかかったりしない?」
語り手:「ご安心ください。ChatGPTの開発者たちは、安全とプライバシーを守るために幾重もの対策を施しています。」

ChatGPTのウェブ検索機能には、セキュリティ(安全性)とプライバシー保護のための設計上の工夫が数多く盛り込まれています。ここでは主なポイントをいくつか取り上げて解説します。

安全な検索処理(SafeSearchフィルタ)

まず、安全性の観点で重要なのが検索結果および取得内容のフィルタリングです。ChatGPTはBingの検索APIを利用していますが、Bing側でSafeSearch(セーフサーチ)モードが有効になっています (ChatGPT plugins | OpenAI)。SafeSearchとは、検索エンジンが有害なコンテンツ(ポルノや暴力的表現、ヘイトスピーチなど)や不適切なサイトを結果から排除する機能です。Bingは独自の基準でコンテンツの健全性を判定し、安全で信頼できるサイトを上位に表示するよう努めています。ChatGPTはその仕組みをそのまま活用することで、最初の検索段階でリスクの高い情報源を避けることができます (ChatGPT plugins | OpenAI)。

仮にSafeSearchですり抜けるコンテンツがあった場合でも、次の段階でブラウザが取得するのはテキストのみであり、画像やスクリプト等の危険要素は無視されます (ChatGPT plugins | OpenAI)。さらに言えば、ChatGPT自身にもOpenAIの定めるコンテンツガイドライン(不適切発言をしない、違法行為を助長しない等)が適用されています。たとえ検索で情報を得ても、そのままではユーザーに提供できない内容(例:違法なハウツー情報や過激な思想の宣伝など)は回答生成の段階でフィルタされます。モデルはそうした要求には応じないよう調整されていますし、最終的な出力前にも監視が働いていると考えられます。

これら多層的なフィルタリングのおかげで、ChatGPTのウェブ検索は「安全運転モード」で行われていると言えるでしょう。実際、OpenAIはBingの安全対策を活用して「問題のあるコンテンツの取得を防いでいる」と明言しています (ChatGPT plugins | OpenAI)。ユーザーとしても、普通にブラウザで検索するよりもある意味クリーンな情報が提供される期待が持てます。ただし完璧ではなく、OpenAI自身「完全ではないが特定のリスクを減らせる」と述べている通り (ChatGPT plugins | OpenAI)、万一有害情報が混入しそうな場合は回答自体が拒否されたり省略されたりすることもあります。安全第一の設計が優先されるため、これは意図された挙動です。

ユーザーエージェントとロボット対策

ChatGPTのブラウズ機能がウェブサイトにアクセスする際には、通常のブラウザと同様にユーザーエージェント(UA)という名札を提示します。OpenAIはこのUA文字列を明示的に「ChatGPT-User」に設定しており、サイト運営者に対して「これはChatGPTからの自動アクセスです」と示すようにしています (ChatGPT plugins | OpenAI)。さらに、ウェブのルールであるrobots.txt(ロボット排除プロトコル)も忠実に遵守します (ChatGPT plugins | OpenAI)。簡単に言えば、サイト側が「自動クローラはこのページを読むべきではない」と指定している場合、ChatGPTのブラウザはその指示に従いアクセスしません。

このため、サイトによってはChatGPTがページ取得を試みても「click failed」(クリック失敗)といったメッセージが表示され、内容を閲覧できないケースがあります (ChatGPT plugins | OpenAI)。これはChatGPTが悪いのではなく、そのサイトがロボットからのアクセスを拒否していることを意味します。OpenAIは「当社のユーザーエージェントはサイトの指示に従うよう構成されている」と述べており、そうした場合にクリック失敗となるのはウェブの礼儀を守った結果だと説明しています (ChatGPT plugins | OpenAI)。またこのユーザーエージェントは、ChatGPT利用者の要求に応じてリアルタイムにページを取得する場合にのみ使われることも明言されています (ChatGPT plugins | OpenAI)。自動でウェブ全体をクロールしたり、データを蓄積したりといった用途には使われません (ChatGPT plugins | OpenAI)。したがってサイト管理者は、ChatGPTからのアクセスを他のボットと同様に制御できますし、嫌ならブロックすることも可能です(OpenAIはChatGPTクローラ用のIPアドレス帯も公開しています (ChatGPT plugins | OpenAI)ので、技術的に遮断することもできます)。このように透明性と従順さを示すことで、ChatGPTのウェブ利用はできるだけインターネット全体の秩序を乱さないよう配慮されています。

プライバシーへの配慮

プライバシー保護も重要なポイントです。ChatGPTがウェブ検索機能を使う場合、ユーザーの質問内容(クエリ)がBingをはじめとする外部サービスに送信されることになります。これは通常の検索エンジン利用と本質的には同じですが、ユーザーとしては「自分の入力がどこかに記録されるのでは?」と不安に思うかもしれません。

OpenAIはこの点、プライバシーポリシー等で厳密に運用していると考えられます。具体的な仕組みとしては公表されていませんが、考慮すべき点を挙げましょう。

  • 最小限の情報送信: ChatGPTが検索APIに送るのは質問から作った検索キーワードのみであり、不要な個人情報や会話全文を送信することはありません。例えばユーザーが「私の住んでいる町の天気は?」と聞いた場合、そのまま「私の住んでいる町」と送るのではなく、ChatGPTは内部でその町名を理解して「○○市 天気」といった具体的な検索クエリに変換して問い合わせます(必要ならユーザーに場所を確認するでしょう)。このように、検索に必要な最小限のテキストだけが外部に出るよう工夫されています。
  • サンドボックス内での一時処理: 検索結果の取得やページ内容の読み込みはすべてサンドボックス内で行われ、会話本体とは切り離されています (ChatGPT plugins | OpenAI)。取得したテキストも回答生成に使われた後、セッション終了とともに破棄される一時データです。永続的に誰かに参照されるものではありません(ただし後述のトラブル対応などでログが検証される可能性はありますが、通常利用ではそれほど心配いりません)。
  • コードプラグインでのネット遮断: 先ほども触れたように、ChatGPTのコード実行プラグインでは外部ネットワークへのアクセスが完全に遮断されています (ChatGPT plugins | OpenAI)。これはユーザーがアップロードしたデータやプライベートな計算内容が第三者に漏れないようにするための措置とも言えます。仮にChatGPTがコード経由でネットにアクセスできてしまうと、ユーザー提供データを勝手に外部送信してしまうリスクがありますが、そうならないよう厳格に管理されています (ChatGPT plugins | OpenAI)。

要するに、ChatGPTの設計者たちはユーザーのプライバシーとデータの安全を守るために、「必要な時に必要な情報だけ外部とやりとりする」という最小化の原則を守っています。検索クエリの送信先であるBingはMicrosoftのサービスであり、その利用規約やプライバシーポリシーの下で動作しています。OpenAIとMicrosoftの協業関係上、データの扱いにも一定のガイドラインがあるでしょう。もちろん完全な匿名は難しいものの、少なくともChatGPTがユーザーの個人データを意図せずばら撒いてしまうような事態は避けられるよう設計されていると考えて良いでしょう。

以上、Browse機能における安全性・プライバシー対策を見てきました。簡単に振り返ると、Bingの安全フィルタ+テキスト限定ブラウジング+サンドボックス隔離+ポリシーフィルタという多段構えでセキュリティが確保され、UAの明示とrobots順守+最小限のデータ送信でプライバシーや倫理面にも配慮がなされています。では実際にChatGPTがウェブ検索を使って質問に答えるケースを、具体例で見てみましょう。

具体的な利用例

それでは、ChatGPTのウェブ検索機能が働く具体例を一つシナリオ形式で紹介します。ここでは、架空のユーザーAliceとChatGPTの対話を通じて、その裏側でどんな検索プロセスが走っているかを想像してみます。

ユーザーの質問: 「今年のノーベル物理学賞の受賞者は誰ですか?」

Aliceは最新のニュースである「今年のノーベル物理学賞」についてChatGPTに尋ねました。ChatGPTは通常、知識カットオフ(2021年末)以降の情報を持っていませんが、この質問にはBrowse機能が適用されます。

  1. 検索クエリの生成: ChatGPTはユーザーの質問文を解析し、「今年」「ノーベル物理学賞」「受賞者」というキーワードから、検索エンジンに投げるべきクエリを考えます。適切なクエリ例として「2025 ノーベル物理学賞 受賞者」などを構成し、Bing検索APIに送信します(仮に今年が2025年だとします)。
  2. Bingで検索実行: サンドボックス内の検索クライアントがBingにクエリを送り、ウェブ検索を行います。Bingは関連する最新のニュース記事やWikipediaページなどを探し、上位結果を返します。例えば上位に「CNNニュース:2025年ノーベル物理学賞は○○氏に決定」といった記事が含まれていたとしましょう。BingはSafeSearch有効のため、不適切なサイトはここには出てきません。
  3. ChatGPTによる結果選択: ChatGPTは返ってきた検索結果一覧のタイトルと概要をざっと読みます。「○○氏が受賞」と明示していそうなニュース記事を見つけ、それをクリックすることに決めます。ここで例えばCNNのニュースページ(仮に "cnn.com/2025-nobel-physics-winner" のようなURL)が選ばれたとします。
  4. ニュースページの取得: ブラウズ用のテキストブラウザがそのURLにアクセスし、記事の本文テキストを取得します。記事には受賞者の名前や選考理由などが書かれています。テキストだけを取得するため、広告や画像は無視され、純粋な記事本文(と見出し、著者名などテキスト要素)がChatGPTに渡ります。
  5. 内容の読解: ChatGPTは取得したニュース記事のテキストを解析します。冒頭部分に「2025年ノーベル物理学賞は○○氏(国籍や所属)が受賞した」と書かれているのを見つけ、「○○氏」という名前とその情報をメモリに保持します。また記事内に共受賞者がいるか、正式な発表元(例えばノーベル委員会の引用)があるかなども確認します。複数名書かれていれば全員を把握します。場合によっては、確証を得るために別の結果(例えばWikipediaのページ)にも飛んでクロスチェックするかもしれません。しかしここではニュース記事だけで十分と判断したとしましょう。
  6. 回答の生成: ChatGPTはユーザーの質問「誰ですか?」に対し、「今年のノーベル物理学賞は○○氏が受賞しました」と回答を作成します。そして文末に、「【参照: CNNニュース】」のような形でソースのURLを脚注として付けます。実際のChatGPTでは「【1】」のような参照番号と共に、回答の最後に引用したURLが提示されるでしょう (ChatGPT plugins | OpenAI)。ここではCNNの記事URLがその参照先になります。
  7. ユーザーへの回答提示: 最終的にAliceの画面にChatGPTの回答が表示されます。例えば:

ChatGPT:「2025年のノーベル物理学賞受賞者は、日本出身の理論物理学者である田中太郎氏です (ChatGPT plugins | OpenAI)。彼は量子テレポーテーションの研究に対して受賞しました。」

(参照リンクとしてCNNニュースの記事URLが表示)

ChatGPTはこのように最新情報を交えて回答し、その出典も示しています。Aliceは回答内容を見て疑問があれば参照リンクをクリックし、実際のニュース記事を読むこともできます。

以上が具体的な利用例の一つです。このように、ChatGPTは裏で検索エンジンを駆使し最新情報をキャッチアップすることで、まるでリアルタイムに知識を更新しているかのような回答を可能にしています。利用者から見るとシームレスですが、その影には様々なテクノロジーと工夫が支えているのです。

発生したトラブル事例と対策

便利なChatGPTのウェブ検索機能ですが、運用当初にはいくつかのトラブル事例も報告されました。ここでは代表的なものを紹介し、その原因とOpenAIのとった対策について解説します。

事例1: 有料記事の全文表示(ペイウォールの回避)

2023年中頃、ChatGPTのBrowse機能を使った一部のユーザーが「有料会員のみ閲覧可能な記事(ペイウォール)の内容をChatGPTが表示してしまう」ことに気づきました。通常、ニュースサイトなどでは有料購読者しか読めない記事がありますが、ChatGPTにURLを与えて「このページの全文を教えて」と頼むと、課金なしで本文を取り出せてしまったのです。これはサイト運営者から見ると収益モデルを損ねる深刻な問題です。

OpenAIもこの問題を認識し、2023年7月3日付でBrowse with Bingのベータ機能を一時停止する措置を取りました (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)。OpenAIは公式声明にて「ChatGPTの『Browse』ベータ機能が、望ましくない形でコンテンツを表示してしまう場合があることが判明した」と述べています (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)。特に「ユーザーが特定のURLの全文を要求した場合、それに応じてしまうケース」が問題視され、「コンテンツ提供者の権利を尊重するため、修正が完了するまでブラウズ機能を無効化する」と発表されました (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)。実際、この一時停止措置は「コンテンツ所有者に対して正しい行いをしたい」(do right by content owners)との姿勢表明でもありました (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)。

では、なぜこんなことが起きたのでしょうか?技術的には、ChatGPTのテキストブラウザはページ内容を取得する際にユーザーのログイン状態などを考慮しません。多くのニュースサイトは検索クローラ向けに記事全文をプレーンテキストで提供していたり、初回アクセスには全文を見せるケースもあります(検索エンジンにインデックスさせるため) (OpenAI just disabled Browsing for Plus users : r/ChatGPT - Reddit)。ChatGPTのクローラは人間の閲覧と異なりクッキーやログイン情報を持たないため、「ロボットには全文を見せる」サイトでは結果的に有料部分まで取れてしまったのです。それをユーザーが要求すると、そのままChatGPTが表示してしまえた──というわけです。

OpenAIはこの問題に対処するため、Browse機能の挙動を変更しました。具体的な修正内容は公表されていませんが、考えられる対策としては:

  • 全文提供の抑制: 特定のサイトで大量のテキストを一度に出力しないようにする。例えば「~以上の長文回答はしない」「新聞サイトから取得したテキストは要約のみ行う」といった制御。
  • 有料サイトの判別: User-Agentや取得したHTMLの構造からペイウォールが存在するサイトかどうかを判定し、その場合は全文提供を拒否する。
  • サイト側の対策支援: OpenAIがクローラの識別情報やIPを公開したように (ChatGPT plugins | OpenAI)、コンテンツ提供者がChatGPTクローラをブロックまたは調整できるよう情報提供を行う。

実際、Browse機能はその後しばらく停止されていましたが、改善を経て2023年9月下旬に再開されました(ChatGPT Plusユーザー向けに再度提供開始) (Browse with Bing is Back (and disappearing again)! - Community - OpenAI Developer Community) (Browse with Bing is Back (and disappearing again)! - Community - OpenAI Developer Community)。再開時にはOpenAIも「もう2021年までのデータに限定されません」とアナウンスしており、最新情報の活用を改めて全面に押し出しています (Browse with Bing is Back (and disappearing again)! - Community - OpenAI Developer Community)。ペイウォール問題への具体的対処法は明示されていませんが、少なくとも「ユーザーが明確にURL全文を要求するケース」には応じないようになったものと思われます。例えば現在では、有料記事のURLを直接入力しても「申し訳ありません、そのコンテンツは表示できません」といった返答になるか、要約のみ提供されるケースが増えています。OpenAIは「テストに協力してくれたユーザーに感謝する。非常に貴重なフィードバックを得て多くを学んだ」と述べており (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)、このようなトラブルを通じて安全で倫理的なサービス運用への改善が進んでいることが伺えます。

事例2: モデルの戸惑い(検索機能の自己認識問題)

Browse機能の初期には、ChatGPTの応答がややちぐはぐになる場面も報告されました。例えばユーザーが「ウェブで調べて教えて」と依頼したのに、ChatGPTが「自分はインターネットに接続されていないので調べられません」と答えてしまうケースです (ChatGPT continues to refuse to help: While I can't browse the …)。これはChatGPTの基本モデルが「ネットに繋がっていない」前提で学習されているために起きる現象でした。プラグイン導入当初、モデルは新しいBrowse機能の存在を十分認識しておらず、検索が可能な状況でも従来の訓練に引きずられて「できません」と返してしまったのです。

OpenAIはこの点も徐々に改善しました。モデルにBrowse機能の使い方を教え込むプロンプトチューニング追加学習を行い、ユーザーの求めに応じて適切に「検索モード」に入るよう調整しています。また、ユーザーインターフェース側でも、プラス会員が明示的にGPT-4 + Browsingを選択する設定になっており、モデルに対してシステムメッセージで「あなたは今ウェブ検索が可能です」という指示が与えられるようになっています。このおかげで、現在ではChatGPTが急に検索をためらうような挙動は減り、スムーズにウェブから情報を取得して回答する確率が高まっています。

事例3: その他の制限

その他、技術的・倫理的な理由でBrowse機能にはいくつか制限があります。例えば:

  • ログインが必要なページは閲覧不可: フォーム送信ができないため、ログインや年齢確認が必要なサイトのコンテンツにはアクセスできません。これはサンドボックスブラウザの設計上当然の制約です (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  • 動的コンテンツの取得困難: JavaScriptで動的に生成されるコンテンツ(SPAサイトや一部のAPI応答)はテキストブラウザでは取得できません。必要なら別のAPIプラグインを用いるしかありません。例えばGoogleマップの結果や高度なWebアプリの内容は取得できないでしょう。
  • マルチメディア非対応: 画像や動画そのものの内容理解はできません(※2023年以降、GPT-4の画像解析機能なども登場しましたが、Browse機能はテキスト情報のみ対象)。そのため画像の説明文などテキスト化された情報以外は扱えません。
  • 速度と回数の制約: 一度の質問であまりに多くの検索やクリックを連発すると、途中で打ち切られることがあります (Browse with Bing is Back (and disappearing again)! - Community - OpenAI Developer Community)。OpenAIはサーバ負荷や外部への負荷を考慮し、連続する多数のリクエストを避けるよう制限をかけているようです(前述のレート制限) (ChatGPT plugins | OpenAI)。そのため、複雑な質問で関連するトピックを次々検索しようとすると途中で結果が得られなくなる場合があります。

このような制限はありますが、裏を返せばChatGPTのBrowse機能は極めて慎重に設計・運用されていることの表れです。必要以上のことはせず、安全が確認できた範囲でのみ能力を発揮するというポリシーが一貫しています。トラブル事例から学びつつ改善を続けているため、ユーザーはその恩恵として徐々に安定し信頼できる最新情報アクセス手段を得ているのです。

関連する研究・開発者の言及

ChatGPTのウェブ検索機能は突如生まれたものではなく、背景にはOpenAIや他社による様々な研究開発の積み重ねがあります。またOpenAIの開発者や関係者も、この機能に関していくつか興味深い発言や論文を残しています。

WebGPT: 前身となった研究

OpenAI自身、2021年末にWebGPTと呼ばれるプロジェクトを公開していました (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。これはGPT-3にテキストベースのウェブブラウザ操作を学習させ、質問に対して自分で検索・閲覧・回答を行えるようにした実験です (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI) (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)。WebGPTではモデルが「Search: ○○」「Find in page: ○○」「Quote: ○○」のようなコマンドを発行し、実際にブラウザを動かして情報を集めるという仕組みが取られました (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)。人間がデモを示し、それを模倣・強化学習させることで、モデル自身に調査能力を身につけさせたのです (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)。

この研究の成果は、ChatGPTのブラウズプラグインに大いに活かされています。実際、OpenAIは「当社のウェブ閲覧プラグインは2021年に初公開したWebGPTでの作業に基づいている」と述べています (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。WebGPTでは情報の信頼性向上のため出典を引用するという習慣もモデルに教え込んでおり (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI) (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)、これが現在のChatGPTが参照リンク付きで回答を行う挙動に繋がっています。言わばWebGPTはBrowse with Bing機能の原型・先駆けであり、対話型AIがインターネットを活用する上での課題と可能性を示したプロジェクトだったのです。

開発者の言及と安全性への意識

OpenAIの経営者や開発チームも、プラグイン機能やブラウズ機能について度々コメントしています。OpenAIのCEOであるSam Altman氏は、プラグイン公開時に「プラグインは非常に実験的だが、この方向性には素晴らしいものがあると考えている。ユーザーから強く求められていた機能だ」と述べています (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。この発言からも、ブラウズ機能がユーザーニーズの高い「最新情報へのアクセス」を満たすためのものであったことが分かります。同時にAltman氏は安全面・影響面への慎重な姿勢も示しており、限定的にテストしながら学んでいく方針を明らかにしていました (ChatGPT plugins | OpenAI)。

技術ブログメディアでは、ChatGPTプラグインがもたらすインパクトについて「従来のWeb検索との競合」や「コンテンツ提供者への影響」が議論されました。例えばある記事では「ChatGPTのブラウザプラグインはBingで検索し結果を直接チャットに統合してしまうため、ユーザーが元サイトを訪れなくても情報を得られてしまう。これはウェブのコンテンツエコシステムを損ねる恐れがある」と指摘されています (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。実際「ウェブサイトを訪問する必要がなくなる」という利便性は、一方でサイト運営者へのトラフィック減少につながりかねません。これに対してOpenAIは先述のように引用リンクを付けるなど「クレジットを戻す」工夫をしていますが (ChatGPT plugins | OpenAI)、今後もこのバランス調整は課題となるでしょう。

また、ChatGPTのクローラをブロックできるようにした点について、ある開発者フォーラムでは「OpenAIは非常に礼儀正しいクローラを提供した」という評価もあります (ChatGPT plugins | OpenAI)。自社の都合だけでなくウェブ標準に従うことで、生態系への配慮を示したわけです。これらの設計思想からは、OpenAIが「AIの利便性」と「インターネット社会との共存」を両立させようとしている姿勢が読み取れます。

競合する技術としては、GoogleのBardやMicrosoftのBing Chatもリアルタイム検索能力を持つ対話AIです。特にBing Chatは初めからBing検索との統合を特徴としており、ChatGPT Browseと似たように検索結果を引用しながら回答します。各社とも安全性に注意を払いつつ、AIが最新情報を扱えるよう試行錯誤している点では共通しています。学術的にも、LangChainなどのツールを使ってLLMに外部ツールを使わせる試み (What Powers the ChatGPT Plugin System | by Thiago Alves | Better Programming) (What Powers the ChatGPT Plugin System | by Thiago Alves | Better Programming)や、GopherCite (ChatGPT plugins | OpenAI)・BlenderBot2 (ChatGPT plugins | OpenAI)など引用付き回答を目指す研究が複数登場しています (ChatGPT plugins | OpenAI)。ChatGPTのウェブ検索機能は、そうした最先端の研究成果の集大成とも言えるでしょう。

まとめ

ChatGPTのウェブ検索機能(Browse with Bing)の裏側には、数々の工夫と安全策が凝らされていました。ポイントを振り返ってみましょう。

  • ChatGPTは直接インターネットに繋がっていないため、最新情報取得にはプラグインという「代理」が必要でした (Google's AI chatbot “Bard”: a side-by-side comparison with ChatGPT …)。この代理としてMicrosoft Bingの検索APIが用いられ、ChatGPTはそれを通じてウェブ情報にアクセスします (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  • 仮想サンドボックス上にブラウザ機能を実装し、本体から隔離して運用することで、外部とのやりとりによるセキュリティリスクを低減しています (ChatGPT plugins | OpenAI)。コード実行プラグインも含め、ChatGPTの外部拡張機能は全て制御されたサンドボックス環境で動いていました (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  • Browse機能はテキストベースのブラウザでページ内容を取得し、フォーム送信などの副作用のある操作は一切行いません (ChatGPT plugins | OpenAI)。検索~閲覧~回答作成までのプロセスがモデルに組み込まれており、適切な箇所を読む・引用するといった人間さながらの調査行動をとります (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)。
  • 安全な検索処理のため、BingのSafeSearch(セーフモード)による有害コンテンツ除外を活用し (ChatGPT plugins | OpenAI)、さらに取得したテキストも必要に応じてモデル側でフィルタリングします。ユーザーに不適切な内容を見せないよう多層防御が働いています。
  • ユーザーエージェントの明示とロボット遵守により、ChatGPTクローラはウェブのルールに従っています (ChatGPT plugins | OpenAI)。サイト側が拒否したページにはアクセスせず、「良きウェブ市民」として振る舞う設計になっています (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  • プライバシー保護の観点では、やりとりされる情報を最小限にし、サンドボックス内の処理で閉じることで、ユーザーのデータが拡散しないよう注意が払われています。
  • 具体的な利用例として、ニュース記事の検索・要約や最新データの取得など、ChatGPTは従来答えられなかった質問にも対応できるようになりました。参照リンク付きの回答によって、情報源の確認も可能です (ChatGPT plugins | OpenAI)。
  • トラブル事例では、有料記事の全文表示問題が発生し、一時的に機能停止・修正が行われました (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)。OpenAIは迅速に対応し、現在は対策が施されています。また、モデルが検索機能を認識しない問題など細かな改善も重ねられています。
  • 背景研究や開発者の見解として、WebGPTのような先行研究 (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)がこの機能の土台となり、OpenAIも安全かつ有用な形での実装に腐心してきたことが伺えます。プラグイン機能はユーザーの要望に応えたものでありつつ、インターネットの健全性との両立を模索する最前線でもあります (ChatGPT plugins | OpenAI) (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)。

最後に、ChatGPTのウェブ検索機能は日々進化しています。今後さらに高度な情報収集やマルチメディア対応が進むかもしれませんが、根底にあるのは「ユーザーに最新で正確な情報を、安全に届ける」という思想です。仮想サンドボックスという見えない防護服を着て、ChatGPTはこれからも広大なウェブの海原を安全に航海していくことでしょう。

参考文献

  1. OpenAI, “ChatGPT plugins” (2023) - OpenAI公式ブログ(プラグイン機能の導入と安全性について) (ChatGPT plugins | OpenAI) (ChatGPT plugins | OpenAI) (ChatGPT plugins | OpenAI)
  2. OpenAI, “WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing” (2021) - OpenAI研究ブログ(WebGPTプロジェクトの概要) (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI) (WebGPT: Improving the factual accuracy of language models through web browsing | OpenAI)
  3. Trevor Mogg, “ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall access flaw” (2023) - Digital Trends(ブラウズ機能のペイウォール問題に関する報道) (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends) (ChatGPT’s Bing browsing feature disabled over paywall flaw | Digital Trends)
  4. The Decoder, “OpenAI’s ChatGPT plugins are publishers’ worst nightmare” (2023) - The Decoder(ChatGPTプラグインとウェブ業界への影響についての解説) (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare) (OpenAI's ChatGPT plugins are publishers' worst nightmare)
  5. OpenAI Developer Forum, “Browse with Bing is Back (September 2023)” - OpenAIコミュニティ(Browse機能再開時のOpenAI公式発表引用) (Browse with Bing is Back (and disappearing again)! - Community - OpenAI Developer Community) (Browse with Bing is Back (and disappearing again)! - Community - OpenAI Developer Community)
  6. OpenAI, ChatGPT User Agent and Robots Policy (2023) - OpenAIプラットフォームドキュメント(ChatGPTクローラのユーザーエージェントとIP情報) (ChatGPT plugins | OpenAI)
  7. Reddit, Discussion on ChatGPT’s internet access (2023) - (ChatGPTがインターネットアクセスを拒否する現象に関するユーザーディスカッション) (ChatGPT continues to refuse to help: While I can't browse the …) (※参考)